組織の未来をつくるコラム

早期退職者の地方移住と企業の求人対策

東京商工リサーチは1月13日、2024年の上場企業「早期・希望退職募集」状況について発表しました。2024年に「早期・希望退職募集」が判明した上場企業は57社で前年(41社)と比べ39%の増加になりました。募集人員は1万9人(同3,161人)と3倍に増加、21年の1万5,892人以来、3年ぶりに1万人を超えました。募集人数は、大手メーカーを中心に大型化し、黒字企業の構造改革も目立ったようです。上場区分は東証プライムが40社(構成比70.1%)で、黒字企業が34社(同59.6%)と約6割を占めました。「経営環境の不透明さから、将来を見据えた構造改革に着手する企業が増え、2025年も早期・希望退職の募集が加速する可能性が高い」と予測しています。業種別は、グローバル構造改革で対象がグループ全社の2,400人に及ぶコニカミノルタ、募集人数は非公表ですが200億円の費用計上を発表した富士通、構造改革プログラムとして1,000人を募集したオムロンなど、電気機器が13社(前年5社)で最多でした。


企業が早期退職者を募集する背景としては、コロナ禍やウクライナ情勢の影響による、円安や物価上昇のほか、DX推進やAIによる業務の自動化への投資などが挙げられます。 早い段階から不採算事業の撤退、新事業の創出、業務効率化など今後を見据え、人材の再配置を目的に早期退職制度を活用する企業が増加しているのが近年の動向のようです。早期退職制度(早期退職優遇制度)とは、一定の条件を満たす従業員が、優遇措置を受けながら定年前に退職を希望できる制度です。早期退職制度の対象年齢は企業によって異なりますが、一般的には、40~50代の中高年層が対象範囲となるようです。上場企業による早期退職募集の増加は、地方移住がキャリア形成の新たなチャンスとなると考える人も多くいるようです。都市部では一部の業務に特化した働き方が一般的ですが、地方企業では多様な業務に取り組む機会が多いため、多種多様なキャリア形成の機会・環境が整っています。



また地方企業にとっても、大手企業の人材流入は成長のチャンスです。採用・受け入れを戦略的に行い、優秀な人材を活かしたイノベーションを実現していくことが成功の鍵となります。戦略としては、「組織の歯車ではなく、経営に近い立場で影響力を発揮できる」「幅広い業務を任せられ、意思決定に関与できる」「新規事業や事業改革のリーダーを担う」などの裁量の広さを強調した募集が効果的かも知れません。また、住居費の安さ、通勤ストレスの軽減など生活コストの削減に触れるのも良いかもしれません。個人的には最大の訴求点と考えるのは、自然に囲まれた環境、家族との時間の充実、ワークライフバランスの実現です。また、地域産業との連携、地方創生への貢献など通じて、既存事業の成長戦略を担うことや新規事業・DX・業務改善の推進役を務めるなど大手企業での管理職経験またはプロジェクトマネジメント経験を生かせる場が多くあります。


企業の準備としては給与・待遇の設計があります。大手企業に比べて給与水準は低下する可能性があるため、成果連動型報酬やストックオプション制度を活用します。副業・兼業(コンサルタントや講師業の兼務など)を認める必要があるかもしれません。住居支援として自治体に制度があれば移住者向けの住宅補助、自治体の補助金活用などに加えて配偶者の仕事探しなど家族サポートにも配慮が必要です。何より期待したいのがイノベーションの創出です。採用したミドル層が既存業務の効率化だけでなく、新規事業開発をリードしてもらうためにも現在の従業員の人材育成も必要な対策です。新規事業開発チームの設立をして地方特産品×EC、地域企業向けDX支援、観光ビジネスなど可能性は大きく広がります。日本の高度成長期のように「鶏口牛後」優秀な人材が中小企業に集まる時代がくるかも知れません。