組織の未来をつくるコラム

イノベーションの創出と組織風土改革

イノベーションの提唱者であるシュンペーターは、イノベーションとは、物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」を創造することにより、新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことと定義しました。また、イノベーションは、大別すると、従来製品・サービスの改良による「持続的イノベーション」と、従来製品・サービスの価値を破壊する「破壊的イノベーション」との2種類に大別されます。イノベーションを起こす手法として、新製品の開発により差別化を実現する「プロダクトイノベーション」と、新たな方法の実施により差別化を実現する「プロセスイノベーション」とに大別できます。中小企業のイノベーションは、持続的イノベーションを念頭にプロダクト・プロセスのいずれかの差別化の可能性を見出すことが現実的です。


近年、日本企業の多くがイノベーションを筆頭の経営課題に掲げ、さまざまな取り組みを行っています。しかし、イノベーションという手段を用いて解決すべき課題(アジェンダ)を設定していないことが多いようです。本来、ビジネスもまた何らかの豊かさを生み出す、あるいはなんらかの社会的問題を解決するための「手段」でしかなかったはずです。世の中に存在する課題を解決することを目指した結果、たまたまイノベーションを起こしてしまったというのが本来の姿です。ノベーションは単なる技術の進歩ではなく、企業文化、組織構造、市場理解も含んでいます。重要なのは外部の変化に柔軟に対応し、内部での創造力を最大限に引き出すことです。企業がイノベーションを成功させるためには、常に環境の変化を敏感に捉え内外からの学びを統合し、新たな価値を創造する姿勢が求められます



一橋大学野中先生は「日本企業はオーバー・プランニング(過剰計画)、オーバー・アナリシス(過剰分析)、オーバー・コンプライアンス(過剰法令順守)の『3大疾病』に陥っている」と指摘されました。
イノベーション創出には、実験的かつ積極的な試みを重視し、新しいアイデアやコンセプトを速やかにプロトタイプ化し、小規模ながらも実際の市場で試すことでその実用性や市場の反応を直接観察することが重要です。従来の古い考え方(ダウンローディング)を直視し、変化に対応できる新たな価値観を見出して解決すべき課題とミッション・パーパスとつながる道筋を見つけ結晶化する。何度も何度もプロトタイプを作り変えるトライアンドゴー(試行錯誤)を繰り返すことが大事です。その前提として、心理的安全性の高い職場環境の構築が重要となります。失敗を恐れずにチャレンジする精神が養われイノベーションが芽生えやすくなります。


心理的安全性の高い職場環境のなかでは、従業員が新しいアイデアや提案を恐れずに表明できるような文化を育むことで創造性と協働が促進されます。協働の精神は組織の多様性と包摂の文化により生み出されます。個人が実験的なアイデアを創出し組織がそれを支えることで、アイデアはただの思いつきから企業の成長を促す実行可能な計画へと変貌を遂げるのです。イノベーション創出には従業員の「熱意」が非常に重要となります。それを引き出す対話型リーダーに対して、「責任は俺がとるから!」「好きなようにやってみろ!」「お前に任せた!」という経営者の態度が重要です。対話型リーダーは、毎回のミーティング記録を経営側に公開し、予算執行の必要性が生じた場合のコミュニケーションの在り方を常に念頭に置く必要があります。また任せるということは、自分で判断できるような基準が必要になります。よって、ミッション、パーパスが重要となります。