組織の未来をつくるコラム

中小企業の人的資本経営への移行について

現在、「人的資本経営」という考え方が急速に浸透してきています。「人的資本経営」とは、経済産業省によると、「人材」を「資本」として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方と定義されます。変化が激しい現代には「これまでの成功体験に囚われることなく、企業も個人も変化に柔軟に対応し、想定外のショックへの強靭性(レジリエンス)を高めていく変革力が求められます。そのためには人材のスキルとエンゲージメントを向上させ組織の競争力を強化する必要があります。中小企業にとって人的資本経営への移行は投資家に対する情報開示を目的とはしません。経営戦略と表裏一体で人材戦略を考えることが求められることで従業員のスキルアップと成長が促され、業務の生産性が向上します。


最初に、具体的に人的資本をどう活用して企業目標を達成するか、具体的なビジョンと目標を設定します。経営層がどのように人的資本を重視するかを明確にし、従業員に共有することで理解と賛同を得ます。その後のAs is-To beギャップの定量把握で現在の従業員構成、スキルセット、働き方、組織の課題や強みを洗い出します。従業員やリーダーシップの観点からデータを集め、どの分野で人的資本が不足しているか、どのように発展できるかを理解します。人材戦略が実行されるプロセスの中で、組織や個人の行動変容を促し、企業文化として定着させるため目標に基づいた人材育成プログラム(トレーニング、キャリア開発プログラムなど)を設計・導入します。また、スキルアップやキャリアアップのためのサポートを提供し、従業員のモチベーションとエンゲージメントを向上させます。



中小企業の人的資本経営への移行のメリットとして、人材のスキルとエンゲージメントが向上し、会社の競争力を強化できます。特に、従業員の専門性が高まることで、サービスやプロダクトの質が向上し、顧客満足度や売上にポジティブな影響を与えます。また、人的資本経営による従業員の成長を支援することで、離職率の低減が期待できます。従業員のモチベーションが向上し、企業に対する忠誠心が強まるため、定着率が改善されるなどプラスの効果が高いです。最大のメリットは、従業員がスキルを活かしてアイデアを出しやすい環境が整い、イノベーションが促進され、社員が主体的に問題解決に取り組む文化が形成され、企業全体での創造性が高まることです。デメリットとしては、教育や人材開発に費用がかかるため、短期的にはコストが増加します。


また、人的資本経営の効果が現れるまでには時間がかかることが多く、短期的な成果が見えにくいです。そのため従業員が新しい評価方法やキャリア開発の重要性を理解するための啓蒙が必要であり、従業員のパフォーマンス評価や報酬のシステムを再構築することが重要になります。従業員の成長と貢献度を公正に評価し、適切な報酬とキャリアの機会を提供することで、長期的なモチベーションの維持に繋がります。人的資本に関するKPIを設定し、定期的に進捗をモニタリングします。KPIには従業員満足度、離職率、研修参加率、生産性などが含まれます。これにより必要な改善策を検討できます。人的資本経営は、中小企業にとっても競争力を高め、長期的な成長を促す有力な戦略です。効果的に実施するためには、トップから現場までの連携と、時間をかけた段階的な導入が求められます。