令和6年度厚生労働白書についての考察
「厚生労働白書」は、厚生労働行政の現状や今後の見通しなどについて、広く国民に伝えることを目的にとりまとめられているもので、令和6年版は2部構成となっています。その年ごとのテーマを設定している第1部では、「こころの健康と向き合い、健やかに暮らすことのできる社会に」と題して、こころの健康を損ねる背景にある「ストレス要因」に着目し、幼年期から老年期までに至るライフステージに沿って、現代社会のストレスの多様さについて考察した上で、こころの健康に関する対策や支援の現状および今後の方向性を提示しています。第2部では、「現下の政策課題への対応」と題し、子育て、雇用、年金、医療・介護など、厚生労働行政の各分野について、最近の施策の動きをまとめています。
こころの健康を取り巻く環境と現状と題した資料では、2020年の精神疾患を有する医療機関の外来患者数が約586万人と2017年の389万人から約150%増えています。私も県の社会保険労務士会の依頼で10年以上無料相談会の相談員を務めていますが、会社とのトラブルで精神障害を発症した労働者の相談が年々増えていることを実感しています。うつ病や双極性障害、適応障害、統合失調症と症状はさまざまですが業務に従事できず相談に来られる方がほとんどです。白書では、現代社会のストレス要因として、入学・進学、結婚・出産・子育て・介護や就業や退職、死別などライフステージごとでの日常生活のイベントや出来事のストレスを健康リスクとして挙げています。相談に来られる方の多くが同時期にストレスのかかる出来事が複数重なってしまったことの原因が多いようです。
そのようなストレスに対処しながらよく学び・働き・地域との関係性の豊かさなど精神的に満たされたこころの健康を保つ生活について方向性を示しています。相談を受けながら感じていたことは、ストレスに向かう気持ち、感じ方などストレス耐性は個人差があるようです。白書では学校や地域あるいは職場、社会全体でこころの不調につながらない取り組みを紹介していますが、家族と一緒に相談に来られる方、一人でこられる方の多くは少し話せるようになったから来ましたが最初の一言です。今年3月に公表された「令和5年度職場のハラスメントに関する実態調査報告書」では、企業のハラスメント対策がなされる中、セクハラが多少現象しているもののパワハラ、マタハラなどはほぼ変わらない状況です。近年のSNSなどの関連事件を見る限りいじめ・いやがらせが社会全体にまん延しているようで日常生活そのものにストレスを感じます。
日本型メンバーシップ型の働き方から、職務基準いわゆるジョブ型への転換を働き方改革で推進しています。個人の業務遂行の能力で給与等を決定していく仕組みは必要で必然的なことですが、従来の日本特有の職場内の従業員相互の関係性、組織性まで否定するものではないと思っています。企業では、社内行事の減少などによって従業員同士のコミュニケーション機会が減っています。相談にこられる方々の多くは離婚問題など家庭内の出来ごとを職場で話せないまま転勤になったなどの原因で、また複数の出来事のストレスを抱えてまま仕事のミスが重なりパワハラ被害になど。社内で相談できる環境が理想、対話が出来る職場、風通しの良い職場、これなら企業の組織開発の取り組みとしていつでもできることです。解決策は身近なところから、今年の厚生労働白書を見ての個人的意見です。