組織の未来をつくるコラム

最低賃金引き上げの審議と中小企業の課題解決の提案

中央最低賃金審議会の小委員会は7月24日、今年度の最低賃金引き上げ額の目安を50円で合意することを公表しました。最低賃金の全国平均は、現在の1,004円から1,054円へ引き上げられます。全国的な人手不足から最低賃金の低い地方から都市部への人口流出が指摘されていましたが、今回のそれらの要望もあり大幅な引き上げにつながったようです。物価上昇の影響を受ける従業員への配慮、競合企業などとの人材獲得競争の対応として、この春多くの企業が賃上げを行っています。諸事情を考えると10月から順次施行される最低賃金は、パートさんなどの非正規雇用従業員の物価高の影響軽減に大いに役立ちますので歓迎すべき決定です。今後、ベースアップを含めた賃金制度の見直しや人件費増加分を販売価格に転嫁する動きが広がるものと思います。政府は2030年代半ばまで全国加重平均を1,500円にすることを宣言していますので、人材の確保・活用、いわゆる人事戦略が経営戦略に大きな影響を及ぼす時代が続くことは間違いなさそうです。


中小企業にとっての人材不足の解決、資本としての人材の活用は経営に大きな影響を与える課題です。中小企業の人手不足解決に向けての対策として、従業員の育成と時間生産性の向上やフレックス制導入のなどワークライフバランが保てる働き方の変革、また業務プロセスを見直して労働時間の短縮を促すなどの方法があると思います。次世代育成支援法に基づいた福利厚生政策の計画書を作成して従業員と一緒に行動施策を作成するのも一案です。多様な人材を確保するために限定正社員制度の導入や専門的なスキルを持つ期間従業員が活躍できる人事制度の見直しも有効です。IT活用の省力化も有効な手立てです。一般的に書籍やWEB上でも言われていることで、私もこのような対策を前向きに行えば何らかの結果が得られるものと確信しています。しかし、リスキリングの必要性が言われている中で、今までの考え方でこれらの課題を解決するのは困難だと思います。まずは従業員の育成が必要です。



従業員の育成とは、自社の理念や目標に従って業務の見直しや生産性を意識した働き方が出来る従業員を育てることです。自社の扱う製品やサービスなどの基本的な知識。・スキルまた質的向上を目指す社員教育とは本質的に違います。前者はマネジメントに関する教育やシステム思考などの高度な思考力を培う教育が必要になりますが、中小企業で実施している企業は少ないと思います。企業の中長期ビジョンを実現するための現状とのギャップを分析して不足する知識・スキルを整理して、必要な施策、実行計画の立案、デジタル代替可能性への検討が出来る人材の育成が急務かと考えます。高騰する労務コストを価格転嫁できない企業が多い中、人手不足の改善や業務の見直しを行うためにも人材が育つ、変化する経済社会情勢に柔軟に対応できる企業になるためにも「学習する組織」への道を薦めています。求職者のなかには自己研鑽を通じてスキルを向上させ、問題解決力やコミュニケーション能力が磨ける組織で働きたい希望の方も多くいます。


中小企業の良さは、大企業のように仕事の細分化されていないため若くしても能力があれば経営に関する仕事や外部との渉外担当になりプロジェクトリーダーとしての活躍することも可能です。私が昔そうであったように、生涯の雇用者としての人生を望まずフリーランスの道、起業を夢見る若者が増えてきています。ところがある調査統計によれば、会社設立5年後の継続率は一般の企業では約30%、10年後約10%に対して、若者のスタートアップ企業は5年後約6%だそうです。起業前に経営やマネジメントの知識、どんな仕事でも現場での経験あれば自分の才能を伸ばせたのではないかと思います。最低賃金の上昇に伴い労務コストの高騰は現実のものに、自社の企業の魅力を違う方向でアピールしてはいかがでしょうか。3年、5年で飛び立つ従業員を育てることも人手不足時代に必要な会社の役割だと思います。