組織の未来をつくるコラム

厚生年金適用拡大と人材ポートフォリオ

今年は5年に1度行われる公的年金の財政状況に検査にあたる「財政検証」の年です。来年の年金改正に向けて様々な議論が行われます。老後の生活資金に関わる内容ですので働く人にとっても重要な内容とは思いますが、今回は今年10月からの従業員51人以上の企業に適用される短時間労働者の厚生年金加入にスポットを当てたいと思います。夫の扶養親族として今まで国民年金第3号被保険者、健康保険被保険者として、保険料の負担もなかったパートさんたちが一定要件で加入の対象になります。保険料の半額を負担する企業のとっても大きな問題です。何よりも心配すべきは人手不足の状況で、夫の扶養の範囲で働きたい人の更なる短時間勤務、就業調整の現実です。企業規模要件を101人以上に拡大した2022年では第3号被保険者の約48%が適用されることを回避しています。さらなる人手不足に陥ります。


このことについて第3号被保険者の厚生年金加入について、当時、手取り収入の減少を意識しながら就業調整をしている現実が認められると「働き方の多様性を踏まえた被用者保険適用の在り方に関する懇談会」が7月4日に発表した資料にも書かれています。今回、適用になる事業所の判断基準は、同一法人を有するすべての事業所に使用される厚生年金の被保険者総数が12月のうち6月以上が51人を超えることが見込まれること。短時間労働者の範囲は、雇用契約書等により所定労働時間週20時間以上の労働時間とされる人。週20時間未満で散発的に超える月がある場合は問題ありませんが、週20時間を超える月が3月続いた場合3月目の初日に加入させなければなりません。所定内賃金が88,000円以上の人で、88,000円には時間外・休日労働に関する賃金は除外して算出します。国の政策ですので対象となる人の加入はやむを得ないとしても、人手不足に拍車がかかるのは避けたいです。



人材ポートフォリオとは、機能や職種に基づいてどのような人材がそれぞれどのくらい必要かを分析した結果の資料を指します。中長期の経営計画に連動させて作成されるのが一般的ですが、直近に迫った厚生年金適用拡大と特にパートさんの従業員が多い企業には作成をお勧めします。作成の短期的なメリットは、一定期間の評価・調整を行うことで組織の変化に合わせて改善し続けることが可能となり、その考え方は現場にも及ぶということです。雇用調整を行うとしても従業員同士が年間の勤務シフトを作成して、業務の停滞がないように短時間・休日の調製を行います。このような場面でも何とかなると考える方もいますが、何とかなった現実を見たことがありません。人材ポートフォリオを作って現場との調整を図ることが最良の対策だと考えます。


人事ポートフォリオは、いわゆる「人材版伊藤リポート2.0」において、事業戦略と人材戦略の紐づけ(連動)で注目を集めています。実現のために大きな要素として「動的な人材ポートフォリオ」を掲げています。前述の政府懇談会においては企業規模要件の早期の撤廃を掲げおり、要件に該当するすべての短時間労働者の厚生年金加入は避けられない現実です。事業戦略やビジョンに反映した人材像の規定、ビジネスプロセスに基づく、短時間労働者を含めた機能、職務。職種の定義設定など長期的な取り組みとしても、今回の厚生年金適用拡大対策の機会に社内での検討はチャンスと思います。事業規模は問わず将来的には、取り組み方の違いはあれ短時間労働者を含めた人材戦略の見直しは必須、現場からの組織開発に実践として取り組めばより効果的です。