2024年版中小企業白書・小規模企業白書の概要
中小企業庁は、中小企業・小規模事業者の現状と直面する課題、今後の展望として、中小企業が環境変化を乗り越え、経営資源を確保して生産性の向上に繋げていくための取組について2024年版中小企業白書・小規模企業白書として取りまとめ5月10日に公表しました。2023年度は売上高が新型コロナウイルス感染症による落ち込みから回復し、中小企業の業績判断DIは高水準で推移していることを挙げています。今後、人手不足が深刻化する中で日本の国際競争力を維持するためには、中小企業の省力化投資や単価の引上げを通じて生産性を向上させていくことに期待を寄せているようです。具体的な取り組みとしては、人への投資、設備投資、M&A、研究開発投資といった投資行動が有効であると分析しています。
白書では、これまで生産年齢人口(16歳~64歳)の減少を補う形で女性・高齢者の就業は進んできましたが、今後は日本の人口減少に伴い就業者が急激に減少、人材の供給制約に直面することを予測しています。また、物価に見合った賃金の引上げを通じて、需要の拡大につなげる好循環を期待していますが、中小企業の売上高や収益率の低迷に単価の引上げによる生産性向上も追及する必要があると言明しています。しかし、賃上げ原資の確保には価格転嫁の促進が重要としていますが、コスト増加分の転嫁が出来ていないにも言及しています。対策としては、価格転嫁に関する協議の場を設けることと協議が実施された場合には、商品・製品の原価構成と把握する事前準備が効果的だと述べています。
興味深い人材確保・育成に関しては経営戦略と一体化した人材戦略を策定した上で、職場環境の整備に取り組むことが重要だとしています。これは一昨年、経産省から発表された「未来人材ビジョン」「人材版伊藤レポート」に通じる内容で、人材戦略は経営の最重要課題であること白書は示しています。人材育成の取り組みが人材の定着や労働生産性の向上につながることが期待されることが数字的にも表れているようです。人手が不足していない企業の要因は働きやすい職場環境・制度の整備が進んでいることのようです。「賃金・賞与の引上げ」(52.0%)「働きやすい職場環境づくり」(35.1%)、「福利厚生の充実」(25.7%)「働き方の多様化やワークライフバランス」(19.1%)と金銭面以外でも様々な取り組みを行っています。
白書では中小企業の投資行動を推奨しているようですが、最も重要なのが「人への投資」だと考えます。以前のコラムでも書きましたが、ここでいう人への投資とは従業員の仕事の能力を高め、企業の成長・発展に貢献できる人材を育成することです。人材教育とは、企業の業界での専門的分野の知識・スキルを教育することです。人材教育はすべての企業で行っていると思いますが、予測不能の時代にあっても企業のビジョンに従って適切・的確な判断で業務を遂行できる人材育成を行っている企業は少ないと思います。人材の確保と育成ためには、将来の企業ビジョンを策定して社内での共有化、それに沿ったいくつもの話し合いの場が必要です。これからの時代は本人も気づいていない「能力の強み」を活かした経営が効果的、そのためには人材の育成が最重要です。