組織の未来をつくるコラム

イノベーションとシステム思考

現在、多くの企業で注目を集めているイノベーション。産業界や社会全体において成長や進歩を促進し、競争力を高める重要な要素です。現代社会では、技術の進化が非常に速いペースで進んでいます。新しいテクノロジーやデジタルツールの登場や発達により、情報の伝達や処理が容易となり、生産性の向上が可能になりました。このような技術の進化がイノベーションを促進し、新たなビジネスモデルや製品の開発が求められるようになっています。ノベーションは技術革新と訳されますが、これはある意味「誤り」「誤解」です。実際の意味は「新結合」。イノベーションを定義した、シュンペーターによれば、資源、労働、機械など生産のために必要な要素をそれまでとは異なる仕方で新しく結びつけ直すことが、新結合すなわちイノベーションです。


シュンペーターは、イノベーションを5つタイプに分類しました。一つ目は、新しい財貨すなわち消費者の間でまだ知られていない財貨、あるいは新しい品質の財貨の生産。次に新しい生産方法の導入。AIやIOTを第四次産業革命もこの新しい生産方法の導入になります。3つ目が、インターネットを活用したEコマースなどの新しい販路の開拓。次に再生可能エネルギー、炭素繊維、最近ではミドリムシ(ユーグレナ)など原料あるいは半製品の新しい供給源の獲得。最後は従来の系列関係とは違った企業間関係など新しい組織の実現が考えられます。クラウドサービスやシェアサービスの普及は、所有を前提とした組織を変えようとしています。企業はこれらのタイプを考慮しながら、自社の事業や業界におけるイノベーションの方向性を検討することが重要です。



レイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」では、イノベーションが直面する困難な局面を取り上げています。ある製品で市場優位となった企業が、顧客の声を聞いて、持続的イノベーションに注力するあまり改善を重ね続けた結果、同じ市場で新製品を発売する破壊的イノベーションを起こす新興企業に後れを取り、市場を奪われてしまうことを言います。顧客の声を聞き、全身全霊で顧客のために製品を改善していくことは日本企業の価値の真髄とも言えますが、日本人や日本企業は、このイノベーションのジレンマに陥りやすいとも考えられます。言葉の意味から誤解されがちですが、イノベーションとは「ゼロから1を生む」とは言われますが、「何も無いところから、なにか新しいものを生む」のではありません。既存のあるもの(要素)と別のもの(要素)を結びつけて、新たな価値を生むのがイノベーションです。


要素と要素を結びつけて、新たな価値を生むことは、「システムを創ること」にほかなりません。システム思考の定義である「世の中をシステム(要素と要素の相互作用)と捉え、課題解決を図る」。と「要素と要素を結合し、新たな価値を生む」とは、イノベーションを生み出す考え方と同じだと思います。事業環境は絶えず変化を続けます。自社が得意と分野へ競合が参入したり、顧客の指向、ニーズの変化また技術革新を通じて市場の境界線や地図が塗り替えられたりします。変化に順応した組織を意図的に、そして従業員の潜在力を生かす形を創造的に実現するためにはシステム思考を企業風土として定着させること。「イノベーションのジレンマ」で語られる、競争優位な企業が「持続的イノベーション」に注力している間に「破壊的イノベーション」による市場参入で地図を塗り替える。中小企業はそのカギを握っています。