オーケストラ経営に学ぶ企業のマネジメント
近年、一般企業のマネジメントにおいてもオーケストラ型のマネジメントが注目されているようです。2013年に山岸淳子さん書かれた「ドラッカーとオーケストラの組織論」読み返してみました。ドラッカーは経営学者として知られていますが、ウィーン生まれのドラッカーはオーケストラに関心が高く経営学者として音楽組織にも言及しています。そうしたドラッカーの組織論を下敷きに、著者の山岸さんが自身の交響楽団勤務経験と、研究者としての知識を生かしてオーケストラの組織論を展開しています。ドラッカーは『ネクスト・ソサエティ』という著書の中で「偉大なソロを集めたオーケストラが最高のオーケストラではない。優れたメンバーが最高の演奏をするものが最高のオーケストラである」と言っています。
聴衆に感動を与えるような演奏をするためにも、組織のマネジメントが重要です。また、ドラッカーは「”未来の組織”が急速に現実化している。未来の組織は、情報サービスを主軸としたもの、または情報が組織の構造を支える組織である」と述べています。そしてこのような組織をドラッカーは「情報化組織」と呼びました。また、ドラッカーは、「情報化組織に必要なものはリーダーシップである。自己規律を持ったパフォーマンスを要求し、末端レベルの管理職からトップマネジメントに向けられる様々な要求を尊重するリーダーシップである」とも述べています。山岸さんは「新しい「情報化組織」の特徴は、ミドルマネジメントの不要化と、トップダウンでなく自律的な責任によるコミュニケーションに基づく組織、そして強いリーダーシップである」と述べています。
複雑で不確実性が高い現代社会では、対話を通じて相手を信頼して尊重し合い、協調していくことが求められます。社員の自律を促しながらも、経営者の意思を伝達していくことができるという点で、オーケストラ型のマネジメントがビジネスの現場でも注目されはじめているのだと思います。現代社会では、企業も組織もオーケストラ同様に、スコアを忠実に再現するだけではなく、さらに個性ある付加価値を提供することで、顧客や社会と共鳴することが求められています。そこで重要なのは、メンバー同士がスキルと感性をぶつけ合い、互いにインスパイアされながらアンサンブルを完成させることであって、こうしたチームこそ付加価値の高いアウトプットを生むことができます。
ドラッカーの名著「マネジメント」は、非営利組織の組織論として書かれました。ドラッカーは、非営利組織は、企業のように収益という共通の成果基準がないからこそ組織の成果を測ることが難しく、それゆえ成果を上げるためのマネジメントが必要なのだと考えたと述べています。非営利組織は使命からスタートする必要があるが、これは企業にも同じことが言えるとも指摘しています。そして使命を掲げるためには、オーケストラであれば聴衆、一般企業であれば顧客の創造が必要なのです。ここでドラッカーの最も有名な言葉の一つ「顧客の創造」と結びつきます。「情報化組織」と「顧客とのコミュニケーション」という共通項が浮かんできます。これからの組織に必要なのは専門家を動かす「指揮者=経営者」かもしれません。