環境変化に対応できる強い組織のつくり方
現代は、ビジネスや社会情勢、経済などが複雑さを増し、将来の予測が困難な状態と言われ企業も想定外の出来事に対応する必要があります。「困難である予測」や「かつての常識」に固執するのではなく、想定外の出来事への対応力が求められる時代です。率先して変化の最前線に立ち、対応・行動する力を持った企業にビジネスチャンスが訪れます。新規事業や新たな価値の創出のチャンスとも捉えることができます。業界の概念を覆すような新しいサービスや製品が次々と生まれ、新時代の市場に参入できる余地があります。そのような企業の特徴として、急激な環境変化をスピーディに対応することができる柔軟な組織風土を醸成しています。
2020年春から発生したコロナ禍は、数十年に一度ともいわれるほどの大きくかつ急激な事業環境の変化をもたらしました。この環境変化をむしろ「チャンス」と捉えて、したたかに成長を遂げている強い企業もあります。しかし、コロナ禍のように過去に例がなく、しかも急速に広がった環境変化においては、どのような経営の打ち手が最適なのかを正確に見通すことは、だれにもできません。とにかく素早く試してみるという柔軟な意志決定、それがダメだったら別の方法を考えるという迅速な「トライ&エラー」(試行錯誤)により、最適な道を探ることがベターな選択と考えることができます。『中小企業白書』2021年版においては、事業環境の変化に対して柔軟な対応ができていることと、売上高の回復との関連についての調査結果が掲載されています。
「トライ&エラー」を許容する組織風土が強いほど、売上高回復企業の割合が高いことが見て取れます。そのような組織風土を持つ企業の多くは、自社がなんのために存在し、社員はなんのために仕事をするのかという「価値観の枠組み」を明確にしています。また、そのような価値観の枠組みをビジョン(使命)やパーパス(存在価値)と呼ぶことがあります。「自社が大切だと考えていることは何か」という価値観の枠組みが社内で共有できていることは、柔軟で強い組織を作る上で、とても大切です。現場が自律的に変化への対応を考えられるようにするためには、先の価値観の共有とあわせて、業績・財務情報や会計数値の理解と浸透も非常に重要になります。
柔軟な組織風土には、失敗がつきものです。そのため、失敗をしないことではなく、失敗をしたらすぐに別のやり方に挑戦できること、つまり躊躇なく「トライ&エラー」を繰り返せることが大切です。失敗をしてもそれが受け入れられるとわかっているので安心して挑戦できる状態である心理的安全性が保たれる組織制度や評価制度が重要な役割となります。2022年、経産省から公開された「未来人材ビジョン」で示された経営戦略と人事戦略の紐づけの捉え方として、日常的に企業内の課題に試行錯誤を繰り返しながら解決していく学習の習慣化が必要だと考えています。計画と実行、フィードバックを通じて新たな価値を創造できる仕組み化(システム)と適正な評価、それ以上に経営者自身の変化も重要なポイントです。