福祉・医療の人手不足問題を考える
福祉・医療業界の人手不足問題の根底には、需要と供給のバランスに問題があると考えられています。少子高齢化に伴い、日本国内での福祉・医療を必要とする人口増加が急速に進むと予想されています。看護協会の統計資料によると、看護職員の就労者数は増加傾向にあるものの人材需要が急激に増加しており、人材の供給が追い付いていないことが人手不足の要因として挙げられます。2つ目として入職後の離職率の高さが挙げられます。人手不足で仕事がきついことが辞めたい理由のトップになっています。一方、介護業界の現状は介護労働安定センターの調査によれば、人材不足の理由として採用の難しさを挙げていましたが、近年は離職率が高いことを理由としているようです。採用の難しさは、きつい・汚い・危険の「3K」イメージが強く、今後もこの傾向は続くと考えられます。
看護職では、仕事を辞めたいと思って仕事をしている方が74.9%と高く、「人手不足で仕事がきつい」「休暇が取れない」など職場の就業環境の課題が浮き彫りになっています。このことが医療ミスや事故の原因になることも分かっており約1割の人がそれを理由に辞めたいと思っているようです。人手不足による業務負荷の悪循環が様々な問題を起こしているようです。介護の離職理由ではちょっと古い調査になりますが、介護関係の仕事を辞めた理由の1位は「職場の人間関係に問題があったため」、「法人や施設・事業所の理念や運営のあり方に不満があったため」が3位となっています。こちらは、ハラスメント等の人間関係を理由とする課題、法人理念と実際の事業運営との乖離、理想は高いが職場環境が整備されないことが理由でしょうか。福祉事業は、10年前からジョブ型人事制度の取り組みを始めた業種です。あの通り進んでいれば今の姿はなかったと思います。
福祉業界では2025年、国民の5人に1人が75歳以上の後期高齢者になることで福祉の人材不足を予測していました。人材不足を補うためには、介護福祉士・看護師などの有資格者を主力とした事業展開を不可能と考え、女性や高齢者などの無資格者が専門職を支える階層別の人事制度(キャリパス人事制度)の導入を決定しました。
組織のすそ野を拡げることで、専門的な仕事に従事する人たちがより高度な仕事に取り組めるシステムを構築することが急務でした。これは、医療にもいえることで医師や看護師だけではなく無資格の看護助手の存在なくして現場は回らないと思います。福祉では○○助手の考え方がまったくなく、パート職員にも同じ仕事をさせる環境のようです。有資格者でなければ出来ない仕事、それ以外の仕事を手伝ってもらうだけでも業務負荷は軽減されると思います。
医療では、職能資格制度という階層別人事制度を導入している法人が多々あります。キャリアパス人事制度は、職務別人事制度で、職務分担を前提とした制度なので職務を洗い出し、どの階層の職員が担当するのかを決める必要があります。仕事を明らかにして期待する成果を伝え、仕事の出来を評価して足りない部分を指導する。2030年、僅か10年で1000万人以上の働き手が減少します。今まで通りの考え方では、運営ができない可能性もあり、スキル別の仕事の進め方、デジタル化、仕事の自動化などあらゆる可能性を検討する必用があります。まずは分担可能な業務の洗い出しからかもしれません。面倒でも100年以上前の科学的管理法を超える学説は未だ見つかっていません。