組織の未来をつくるコラム

キャリアパスと人的資本

「キャリアパス」とは、英語の「Career(職歴)」と「Path(道)」とを組み合わせた言葉で、「仕事における道筋」を意味します。具体的には、企業内において目指す役職・地位・役割を定めた時に、たどるべきポイントやクリアすべき基準、身につけるべきスキルや経験などを示した、いわば昇格基準です。一般的には、キャリアパスは企業が従業員に提示するもので、従業員にとっては自らの将来設計が立てやすくなり、努力の方向性が明確化され、モチベーションの維持に効果が発揮されると言われています。これに対して特定の企業のキャリアだけではなく、転職や起業などを含めた将来の仕事における理想像の計画をキャリアプランと言います。 


キャリアプランを描くビジネスパーソンの転職活動にとって、応募先企業の示すキャリアパスを把握することが、理想的なキャリアの実現に不可欠と言われています。また、企業が成長拡大するうえで、キャリアパスは重要な役割を担います。キャリパスを提示することで求職者自らが企業に適応できるかを判断する材料になり人事のミスマッチを防ぐことができます。また、自社の従業員が目標を認識し、自らのキャリアプランと相違がないか確かめることができます。人事システムとしての役割として、従業員に人事評価の基準や条件を示すことで、自己の能力開発に目的意識を持たせモチベーションアップにつながります。今後、働き方改革、女性の社会的地位の向上に伴い、働く人の多様性が加速し、いま注目される人的資本という考え方も広がってくるでしょう。



人的資本は確固たる定義はありませんが、OECD(経済協力開発機構)では「個人の持って生まれた才能や能力と、教育や訓練を通じて身につける技能や知識を合わせたもの」と定義されています。人的資本が注目される背景には、「人材の多様性の高まり」「ESG投資への関心」「アメリカでの人的資本開示の義務化」などが挙げられます。人的資本に関わる日本での議論は、昨年、経産省の「未来人財ビジョン」公表以来、「人材版伊藤レポート」で提唱された経営戦略と人材戦略の紐づけと3つの視点、5つの共通要素スキームについて活発に行われています。このことで、今までのキャリアパスの習熟要件や習得要件は変更を余儀なくされています。


今まではキャリアパスを構築する場合、現在の仕事をベースに職務分析を行い、職務遂行に関わる能力に応じて階層化してきましたが、AIの進歩でその能力も機械化、自動化されるかもしれません。組織は市場の変化に応じたビジネスモデルの対応を迫られ、個人はリカレントや学び直しを通じて、キャリアチェンジが可能な価値観の多様化が求められます。企業にとって採用や人材定着のためにますますキャリアパスが重要になってきます。個人の能力開発を重視した人材活用をシステムとして構築すること、階層別の求めるキャリア概念の構築は重要な決定事項になります。企業は個人と組織がともに学習する場であることが理想かもしれません。