組織の未来をつくるコラム

就業者のリスキリングとアンラーニングの実態調査

株式会社パーソル総合研究所が2022年5月に実施した全国の就業者 正社員20-59歳男女 3000人に実施した 「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」。興味深い内容でしたのご紹介します。用語の定義ですが、「リスキリング(Reskilling)」とは、職業能力の再開発、再教育のことを意味します。近年では、企業のDX(デジタルトランスフォーメーション)戦略において、新たに必要となる業務・職種に順応できるように、従業員がスキルや知識を再習得するという意味で使われることが増えています。また、「アンラーニング」とは、「学習棄却」と呼ばれ、これまで学んできた知識を捨て、新しく学び直すことを指します。激しい環境の変化に対応するためには、新しい勉強を進めるだけではなく、従来の知識を捨てることも重要だとされています。


アンラーニングのきっかけとしては、「コロナ禍などビジネス環境の変化」が23.2%と多く、その他のきっかけは、「職場メンバーの変更」や「自分のキャリアの振り返り」など多岐に渡ります。就業者のアンラーニングの実態を見ると、全体では49.8%の就業者がアンラーニングを実施しており、アンラーニングの内容としては、「仕事の計画」「仕事の手続きや方法」といった事柄は28%を超えます。「意思決定のプロセスや方法」「顧客のニーズについての考え方や信念」といった事柄はやや低めで、それぞれ24.4%、23.7%となりました。それまでの仕事のやり方を続けても成果や影響力発揮につながらないという自身の限界についての認知(限界認知経験)が、アンラーニングを促進しているようです。



就業者のリスキリング実態をみると、一般的なリスキリングの経験は3割前後、デジタル領域のリスキリング(デジタル・リスキリング)は2割程度、リスキリングの習慣がある者は3割弱となっています。組織の中で業務上の変化を起こすことを負荷として捉える「変化抑制意識」を持っていると、アンラーニングにもリスキリングにもネガティブな影響があるようです。変化抑制意識の実態を見ると、就業者全体の36.4%が「今の組織で仕事のやり方を変えることは大変」、32.3%が「自分だけが仕事のやり方を変えてもしょうがない」と思うことがあると回答しています。こうした意識を「発生させない」、ないしは「コストを超える見返りを与える」施策が必要になります。


昨今、企業が注力するデジタル領域のリスキリングの成否には、リスキリングに対するキャリア上の見返りがあることが強く影響していました。学習機会の提供にとどまらず、具体的なポストへのキャリア・パスや処遇の提示、配置転換の施策と紐づけて実行されることが示唆されます。日本の労働者の学習習慣の無さは、様々な国際調査においても指摘されています。学びの機会だけをつくっても、学ぶ従業員は一部に留まってしまうのが現実です。学び直しを広く促し、人的資源を最大化するためには、学習機会とより広義の人材マネジメントを組み合わせて実践していく戦略性が必要になると提言しています。