組織の未来をつくるコラム

最低賃金引上げと生産性向上をイギリスから学ぶ

雇い主が働き手に払うべき最低賃金(時給)について、今年の引き上げ幅の目安を決める議論が、厚生労働省の審議会で始まりました。岸田文雄首相も目標の「成長と分配の好循環」に向け、今春から「(最低賃金)全国平均1,000円の達成を含めて議論して欲しい」と繰り返してきました。一方、企業側からはこうした動きを牽制(けんせい)する声があがっています。最低賃金の上昇は、生産性向上の結果だったと考えるのは、最低賃金を労働政策、強いていえば貧困対策と捉える考え方です。最低賃金と生産性向上は相関関係にあると考えるのがアメリカを除く世界の国々の考え方です。

モデルとなるイギリスでは、1999年から毎年4.17%も最低賃金が引き上げられ続けられましたが、2018年の最低賃金は2.2倍になったにも関わらずインフレには大きな影響もなく、失業率も過去最低でした。最低賃金制度の新規導入による経済効果を研究するには格好の条件が揃い、多くの研究者が分析した結果が、「最低賃金と生産性向上は相関関係にある」という結論です。また、生産性向上は経営者の質のかかっていることは、研究によって明らかにされています。国が政策として、企業経営者に生産性を上げるように誘導する、その手段として最低賃金の引き上げが重要なポイントになると言われています。



最低賃金が引き上げによって個人消費が上向き、経済が活性化する効果や正規非正規の所得格差改善の効果を期待する声が大きいようです。デメリットとして企業の負担する人件費が増えることや雇用が減少することが挙げられていますが、イギリスや韓国の例を見る限り影響は少なそうです。ある分析によると日本の過去50年間の経済成長率は人口増加要因によるもので、今後の人口減少局面では、もう一つの経済成長率要因である生産性向上を引き上げること、これは企業においても人手不足局面での生産性向上を考える必要があることと同じです。

生産性とは、労働力や機械設備、原材料などの投入量とそれにより得られる製品、サービスの生産量の割合のことです。生産性を向上させる方法として、①より多く生産すること ②投入する人数や時間を減らすこと ③投入する人数や時間を増やしながら、増加させた労働量以上により多くの生産量を増やすことと言われています。経営資源を有効に活用して最大限の成果を生み出すために、業務のモデリングとデジタル化による投入人数、時間の減少が当面の課題になるかもしれません。